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NSK-Nakanishi Japan

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クリニカルレポート

NSK Clinical Report 01
天然歯もインプラントも欲張りメインテナンス

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柏井伸子

有限会社ハグクリエイション代表
口腔科学修士 歯科衛生士

柏井 伸子

はじめに

 医科領域においては、患者さんの負担を軽減するために「低侵襲治療」のアプローチが進められています。腹腔鏡や内視鏡を使用した処置が広く普及しており、これにより患者さんへの身体的負担が軽減されるとともに、術者の作業負担や疲労感の軽減にもつながっています。
 歯科領域においても、治療に使用する機器の選択が患者さんや術者の負担を軽減する可能性があります。例えば、従来のPMTC(Professional Mechanical Teeth Cleaning)では、インプラント補綴や歯周病による歯根形態の複雑化への対応が難しい場合があることが懸念されます。
 そのような複雑な歯根形態にも対応でき、患者さんや術者の快適性を考慮した「専門家による機械的清掃法」を紹介します。

1. バリオスコンビ Proによる臨床上のメリット

 従来のPMTCでは、RDA(Radioactive Dentine Abrasion)表示された研磨剤とカップやブラシで歯面研磨をします。RDA法とは「ヒトの抜去歯に中性子を放射しておき、研磨性試験機方法を用いて象牙質を研磨した際に生じる微量な摩耗成分の放射能を測定することにより、研磨性を評価する方法」とされ※¹、施術後の歯面摩耗が前提となります。また「高速回転、側方圧が加わると、RDA値が小さくても歯面の削除量が増す」とされ※²、30秒間の使用で4μm程度のエナメル質の摩耗が生じる危険性があり、注意が必要です※³。
 実際の臨床では、カップやブラシによるアプローチが難しくなる症例があります。捻転・転移・叢生等の異所萌出や豊隆の大きい補綴物マージンやポンティック底部などです。
 バイオフィルム・プラーク・歯石を効率的に除去するためには、超音波スケーラー(図1)と微細な粒子のパウダーと水を噴射するエアーアブレージョン「パウダーメインテナンス」(図2)を併用することで、短時間で確実に付着・沈着物を除去することが可能となります。
 エアーアブレージョンと聞くと、「ヤニ取りなどの着色除去」のイメージをお持ちの方も多いかもしれません。従来のしょっぱい味の重炭酸ナトリウムを主成分とするパウダーでは着色も落ちる代わりに歯面にも影響が生じる危険性がありましたが、現在では塩分を含有しない炭酸カルシウムを主成分としたパウダーも普及しています。平均の大きさが54μmで一粒一粒が球体のため(図3)、歯面への影響や頬粘膜、舌への刺激も少なくなりました。
 着色でなくバイオフィルム除去を目的とした場合、筆者は「ペリオメイトパウダー」を活用しています。粒子の大きさが平均25μm(図3)と非常に微細で、アミノ酸の一種であるグリシンを主成分とする生体親和性の高いパウダーです。グリシンはサプリメントや人工甘味料としても普及しており、甘い味が特徴です。「歯医者さんで甘い味のする材料は、初めてです。」と驚かれた患者さんもいらっしゃいます。このペリオメイトパウダーの使用により、「パウダーメインテナンス」を幅広く臨床応用することが可能となりました。

2. 継続的パウダーメインテナンスによる病状安定

 エアーアブレージョンとは「微粒子を圧縮空気を利用して歯面に強力に吹き付ける治療法のこと。インプラント周囲炎で汚染されたインプラント体表面の除染において、適切な微粒子の選択とアブレージョン装置によって除染効果を発揮することが報告されている」と解説されています※⁴。
 根面や分岐部へのデブライドメントでは、スケーラーやキュレットなどのマニュアルインスツルメントを使用しますが、インスツルメントが摩耗した状態での過度な歯面への圧接やブレードの角度違い等の不適切な施術による損傷が発生する危険があります。
 また、インプラント患者さんにおいても、ステンレス製インスツルメントを使用すると、金属の硬度の違いからチタン製もしくはチタン合金製のインプラント体やアバットメントを傷つけかねません。インプラントだけでなく天然歯も傷が付けばプラークリテインのリスクが高まり、セルフケアに支障をきたしてしまいます。
 側方圧をかけるマニュアルインスツルメントではなく、エアーアブレージョンで施術することで痛みや不快感を抑え、患者さんのリピート率も高くなり、継続的メインテナンスが実現できます。
 また、継続的メインテナンスのひとつとして歯肉縁下へのアプローチが必要となります。そこで、先端に半円形の切り欠きがあるペリオメイトノズルチップ(図4)を活用することにより、ポケット内のバイオフィルム除去が可能となります。さらに病状の安定したポケット内(図5)やブリッジポンティック底部へも容易に到達することができます。

3. バリオスコンビ Proによるインプラント症例への適用

 欠損補綴としてインプラントが用いられている症例にも「バリオスコンビ Pro」を活用すると、インプラントネック部・アバットメント・補綴装置に付着したバイオフィルムを除去することができます。除去されたバイオフィルム内には歯周病原細菌が含有されており、バラバラに破壊したバイオフィルムであっても 、それ自体が人体にとっては有害なエンドトキシン(内毒素)としてポケット内に残留してしまう危険性があります。
 そこで、その異物をポケット内から洗い流すことが重要であるため、「キャビテーション」と「イリゲーション」の効果が期待できる超音波スケーラーを活用します。
 その際、チタン製もしくはチタン合金製のインプラント体やアバットメントに傷をつけないようにするために、オートクレーブ滅菌が可能な耐熱性プラスチック素材のペリオコントロールチップ(図6)を 使用し、ポケット内環境を清浄化してパウダーメインテナンスによる長期的な安定につなげます(図7)

まとめ

 かけがえのない天然歯を守ることは、口腔健康の維持において重要な役割を果たします。また、何らかの原因で抜歯が避けられなかった場合でも、その後のリハビリテーションとしてインプラント治療を選択することが可能です。そのインプラントを長期的に安定させることで、高齢社会における健康寿命の延伸に貢献できる可能性があります。
 私たち術者の手首の負担を軽減し、患者さんに快適な治療を提供するために、パウダーメインテナンスと超音波スケーリングを活用できるバリオスコンビ Proは、メインテナンスにおいて有用と考えます。
 また、臨床での使用に際し、非常にユーザーフレンドリーな点として、使用後の手入れが容易であることが挙げられます。超音波およびパウダーの使用後、ハンドピースを把持したままオートクリーニングのボタンを長押しすることで、ハンドピースおよびホース内を約45秒間で自動的にクリーニングできます。この機能により、ハンドピース内にパウダーが残留し固着するリスクを軽減できます。時間や作業の効率化により、患者さんも術者も快適な環境を創り出し、余裕をもって患者さんに接することができます。

※医院での事例紹介や個人的な感想も含まれます



参考文献
1. 全国歯科衛生士教育協議会監修: 最新歯科衛生士教本 歯科予防処置論・歯科保健指導論 医歯薬出版 東京 2013: 214
2. 全国歯科衛生士教育協議会監修: 最新歯科衛生士教本 歯科予防処置論・歯科保健指導論 医歯薬出版 東京 2013: 175
3. 全国歯科衛生士教育協議会監修: 最新歯科衛生士教本 歯科予防処置論・歯科保健指導論 医歯薬出版 東京 2013: 177
4. 特定非営利活動法人日本歯周病学会編: 歯周病学用語集第2版 医歯薬出版 東京 2016: 8



柏井伸子 Nobuko Kashiwai

  • 1979年 東京都歯科医師会付属歯科衛生士学校 卒業
  • 2003年 イギリス・ロンドン・スウェーデン・イエテボリ 留学
  • 2004年 有限会社ハグクリエイション 設立
  • 2011年 東北大学大学院医学系研究科修士課程口腔生物学習修了 口腔科学修士
  • 2015年 ミラノにて臨床研究
  • 日本歯科衛生士会
  • 日本口腔インプラント学会
  • 日本歯周病学会
  • 日本口腔感染症学会
  • 日本医療機器学会
  • 日本環境感染学会
  • 日本手術医学会
  • 日本有病者歯科医療学会
  • 日本歯科薬物療法学会
  • 日本骨粗鬆症学会