NSK Clinical Report03
予知性の高いインプラント治療を行ううえでのSurgic Pro2の有用性
(医)木津歯科 オーラル&マキシロフェイシャル ケアクリニック横浜
理事長・総院長
木津 康博
はじめに
欠損歯補綴におけるインプラント治療の予知性は良好であることが知られている。その中でも、正確なインプラント埋入手術が、その予知性に大きな影響を与えている。つまり、インプラント治療の長期的な成功には、理想的な位置へのインプラント窩形成とインプラント体埋入が重要となる。
大臼歯の喪失年齢は全ての歯の中で最も早く、大臼歯が喪失した際には咀嚼機能の低下が生じる。そのため、大臼歯部へのインプラントによる補綴治療症例は多くなる。しかし、大臼歯部のインプラント治療において、対合歯の存在や開口制限などの影響で、インプラント窩の形成やインプラント体の埋入が理想的に行えないことも多い。特に、近年、臨床で応用されているガイデッドサージェリーによるインプラント埋入術は、サージカルテンプレートを利用する場合が多く、臼歯部へのアプローチをより困難なものとしている。そこで、ナカニシが発売したSurgic Pro2はハンドピースヘッドが小さくなったことで、臼歯部へのインプラント埋入術に大変有効である。また、高演色LEDライトの搭載により、術野が明視しやすくなった。さらには、フットコントロールがワイヤレスになったことで、操作性が良好となり、術者の身体的負担が少なくなった。これらのことは、スムーズな手術の施行、術者のストレス軽減のみならず、正確な手術を行ううえで重要なこととなる(図1)。
Surgic Pro2の特長
・ハンドピースヘッドの小型化
・マイクロモーターの軽量化
・高演色LEDライト搭載
・ワイヤレスフットコントロール など
臼歯部へのインプラント治療
症例は50歳男性。主訴として下顎右側第2大臼歯欠損部ヘのインプラント治療を希望。現病歴として、近医で同部位にインプラント治療を3回行ったが、全てにおいて失敗に終わったとのこと。本症例は、開口距離は3横指程度で開口距離が十分ではない。開口距離が少ない患者の大臼歯部におけるインプラント埋入術は、埋入方向などに注意が必要であり、難症例となりやすい。このように十分な開口距離がない患者のインプラント埋入術を行ううえで、従来のハンドピースでは、対合歯の影響などで近心に倒れるなど正確なインプラント窩の形成が難しく、インプラント埋入位置の不良や初期固定が得られないなど、問題が生じる可能性も高い。そこで、開口距離の比較的少ない患者におけるインプラント埋入術では、ハンドピースヘッドが小さいSurgic Pro2の使用は有効と考える。本症例は、3Dナビゲーションシステムを用いたガイデッドサージェリーによるインプラント埋入であり、術前に設定した理想的なポジションへの埋入を行うために、対合歯などの影響を受けづらいSurgic Pro2を用いた手術を行った(図2)。
また、近年では、サージカルテンプレートを用いたガイデッドサージェリーも盛んに行われているが、大臼歯部の開口制限による手術精度の問題がある。その場合には、フリーハンドや3Dナビゲーションシステムによるインプラント埋入術と比較してさらに困難となる。そこで小さいハンドピースヘッドは大きな武器となる(図3)。
Osseo 100+の活用とVarioSurg 3とのリンク機能
Surgic Pro2のオプション機器として、Osseo 100+が発売となった。本機器は、埋入したインプラント体にマルチペグ(チタン製)を連結し、非接触にてその共振周波数(ISQ値)を測定することで、骨内におけるインプラント安定指数を表示して、初期安定性を確認することが可能となる。この機能を利用することで、インプラント埋入時の1回法と2回法の選択や、即時荷重の有無について判断することができる。その際の注意事項としては、確実にジグを装着すること、周囲粘膜にジグが接触していないこと、数方向から測定することなどが正確な診断につながる(図4)。
通常、インプラント埋入時にトルク値のみを確認して初期固定を判断し、これらの方針を決定することが多いと思う。しかし、このようなトルク値のみの判断では骨強度(骨質)が反映されていない場合が多い。つまり、狭い形成窩へのインプラント埋入の場合には、高いトルク値が表示される。しかし、周囲骨の骨強度が低い場合には初期固定は数週間で一旦低下し、約1ヶ月後に新生骨により骨結合が生じる。その判断を得るためには、CT所見による骨密度の診断および形成時の骨強度の診断が重要であり、その最終的な診断には共鳴振動値が有効である(図5)。
下顎臼歯部欠損の本症例では、4方向から測定した平均ISQ値は84であり、良好な初期安定性を認めたためヒーリングアバットメント連結による1回法の術式とした。
また、VarioSurg 3とは本体のスイッチで切り替えを行い、使用することができる(図6)。VarioSurg 3とのリンクは、回転切削機器であるSurgic Pro2を用いたインプラント窩形成および埋入と同時に、超音波骨切削機器による抜歯、骨掻爬、顎堤形成などの付帯的手術も同時に行うことが容易となり、様々な症例に対して大変有用となっている。
まとめ
ナカニシが発売したSurgic Pro2には、本稿で記載したように従来の回転切削機器には無い多くの特長を有している。このような特長を有した機器を使用することは、日本人の口腔内治療を行ううえで大変有効となる。とくにインプラント治療では、臼歯部のみならず様々な症例においてSurgicPro2を使用することで、理想的な位置へのインプラント埋入術が行いやすくなり、治療の予知性を高めると考えている。
※医院での事例紹介や個人的な感想も含まれます。
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木津 康博 Yasuhiro Kizu