本ウェブサイト上の取扱説明書は、現時点で有効な最新版です。全ての取扱説明書は、予告なく変更される場合があります。常に最新版の取扱説明書を確保頂くため、定期的に本ウェブサイトをご確認頂きますようお願い致します。

NSK-Nakanishi Japan

当コンテンツは、歯科医療に従事されている皆さまへの情報提供を目的としています。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではありませんのでご了承ください。

あなたは歯科医療従事者ですか?

Close

クリニカルレポート

NSK Clinical Report 05
超音波スケーラーとエアースケーラーの的確な使い分けを知ろう

PDFダウンロード
柏井伸子

フリーランス歯科衛生士

土屋 和子

はじめに

 超音波スケーラーとエアースケーラーは、どちらも振動を利用して歯石を粉砕する機器である。歯肉縁上、縁下歯石の効率的、かつ効果的な除去や術者の疲労の軽減、患者のチェアタイムの短縮など臨床上のメリットが大きいことから、今日では手用スケーラーと並びスケーリング用の主要機器の一つとなっている。それだけに、術者としてそれぞれの性能の違い、特徴、留意事項を踏まえ、適材適所の使い方を熟知しておく必要があるだろう。それによって初めて手用スケーラーも含めた使い分けや効率のよい施術が行えるからである。本稿では、超音波スケーラーとエアースケーラーのそれぞれの機械的特徴をふまえた適材適所の使い分けを解説する。

1.性能と用途の違い

1) 特徴の大きな違いは、“振動数の差”
 図1で超音波スケーラーとエアースケーラーを比較する。それぞれの特徴を理解することで適切で、効果的な臨床での使用が可能となる。

図1で示す超音波スケーラーとエアースケーラーの「振動数」の違いに注目していただきたい。超音波スケーラーの振動数は毎秒28,000~32,000回、一方、エアースケーラーは、毎秒5,800~6,200回の振動数と、前者は後者の約5倍の振動回数を備えている。この違いが、歯石の破壊能力、液体中でのキャビテーションと呼ばれる現象の有無(エアースケーラーには無し)を生み、それぞれ用途の違いにつながっている。また、超音波スケーラーのチップ振れ幅は約0.05mmで直線の前後運動であるのに対し、エアースケーラーは約0.2mmの楕円運動である。

2) それぞれの特徴をふまえた用途の違いと選択時の留意事項
図1にあげた特徴の違いをもとにそれぞれの用途と選択時の留意事項をあげる。

①超音波スケーラーの場合
細かくパワー調節が出来ることの長所を活かす。
a.使用用途
・強固な歯肉縁上、縁下歯石の効率的な粉砕、洗浄に使用
・キャビテーション効果を利用した歯肉縁下のバイオフィルムの破壊
b.選択時の留意事項
・術者の使い方によっては、歯質や周囲組織を傷つける危険性がある。
・ペースメーカー装着患者には適用不可。

②エアースケーラーの場合
 振動数が少ないため、衝撃が小さく、患者にとって優しい使用感であることを活かすことができる。また、ペースメーカー装着患者にも適用可能。
a.使用用途
・蓄積したプラーク除去や柔らかい沈着物の除去
・歯科医師による、根管内清掃や補綴装置のフィニッシュライン形成
b.選択時の留意事項
・パワーが弱い分、歯質や周囲組織を傷つけにくく安全性は高いが、硬い歯石除去には不向き
・キャビテーション効果はない

③両者共通の留意事項
 使用にあたっては、振動だけではなく、患者の音の感じ方にも留意しておきたい。施術音はエアースケーラーの方が大きく感じ、音に敏感な患者はその音が苦手となる人もいる。補聴器装着患者には、超音波スケーラーやエアースケーラーの使用時は補聴器をOFFにしていただくことが望ましい。

超音波スケーラー:歯面や歯石などの物質との接触時にのみ「キーン」とした甲高い音がでるが、人によってはその音と響きを不快に感じる場合がある。

エアースケーラー:振動させるだけで甲高い音がするため、作業中はその音から逃れることができない。

2.施術時の注意点

1) 超音波スケーラーの場合

 パワーをコントロールしながら歯質や周囲組織へのダメージを与えないよう施術することが欠かせない。(ポイント1〜4)

ポイント1:施術部位の状況によって適切なチップ選択、パワーの設定を行う。多種多様なチップの中から使用用途にあった適切なチップを選ぶ。

使用例1:歯肉縁下の広範囲に及ぶ強固な歯石
→細く断面が角張ったチップ(図2)

使用例2:補綴装置のメインテナンス
→プラスチック素材チップ(図3)

使用例3:バイオフィルムの除去
→イリゲーション用チップ(図4)

ポイント2:安全で効果的な使用のためにチップを歯面に15°以下(歯間部では隣接面に対して15°以下)で、かつフェザータッチであてる(側方圧をかけない)。

ポイント3:連続したストロークを状況に応じて使い分ける。
 ハンドスケーリング時のような側方圧をかけ力強く、瞬間的なストロークで行うのではなく、状況にあわせ連続した軽いストロークで行う。スウィーピングストローク(図5)、プルストローク(図6)を使い分ける。

ポイント4:タッピングストロークで歯石を剥がしやすくする。
 チップ先端を根尖方向に向け、歯石をつつくようにストロークする(図7)。また、チップ先端から約3mmまでの側面を歯石表面にあてて、スウィーピングストロークを繰り返すと、厚い歯石が徐々に薄くなり、歯面から除去される。

2) エアースケーラーの場合

 エアースケーラーは、歯質や周囲組織を傷つけにくく安全性が高いものの、パワーが弱く硬い歯石除去にはむいていない。そのため筆者は、エアースケーラーにソニックブラシを装着し、主にプラーク除去用機器として使用している(図8)
エアースケーラーは細かい振動と注水により、回転式のロビンソンブラシよりもはるかに微細な付着物を除去できる。他にも、プラーク除去は歯内療法時や補綴装置など歯科医師による治療の前処置にも応用できる(図9)

まとめ

 超音波スケーラーとエアースケーラーは、目的に応じ的確に使い分けることで、初めて良好な臨床結果を得ることのできる機器である。「超音波スケーラー、エアースケーラーのいずれかで全てをまかなう」という発想ではなく、様々な場面で併用したり、適材適所での応用を考えるべきであり、本稿が読者の機器選択の参考資料となれば幸いである。

※医院での事例紹介や個人的な感想も含まれます。



参考文献
1) 土屋和子. 超音波スケーラーの基本操作. デンタルハイジーン別冊:歯周治療を治すSRP できる歯科衛生士のスキルと知識、2014.



土屋 和子 Kazuko Tsuchiya

  • 1977年 歯科衛生士免許取得
  • 1981年 Dr. Raymond.L.Kim's officeにてアシスタント勤務・研修
  • 1982年 フリーランス体制により数多くの診療室に勤務
  • 1999年 ウエマツ歯科医院(東京都)、ノブレストラティブデンタルオフィス(東京都)ほか
  • 2011年 全米NLP協会公認トレーナーライセンス取得
  • 2012年 LABプロファイル®公認トレーナーライセンス取得
  • 2017年 アクセス・コンシャスネスバーズ・ファシリテーター
  • 2021年 臨床歯科麻酔認定歯科衛生士 取得

  • 日本臨床歯科学会 東京支部 所属