本ウェブサイト上の取扱説明書は、現時点で有効な最新版です。全ての取扱説明書は、予告なく変更される場合があります。常に最新版の取扱説明書を確保頂くため、定期的に本ウェブサイトをご確認頂きますようお願い致します。

NSK-Nakanishi Japan

当コンテンツは、歯科医療に従事されている皆さまへの情報提供を目的としています。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではありませんのでご了承ください。

あなたは歯科医療従事者ですか?

Close

クリニカルレポート

NSK Clinical Report06
エビデンスから紐解く、今日の超音波スケーラーの有用性
― 超音波スケーラーvs手用インスツルメントどちらが効果的か? ―

PDFダウンロード
弘岡 秀明

東京都千代田区開業

弘岡 秀明

はじめに

 歯周病は、歯に付着したバイオフィルムによって引き起こされる炎症を伴うある種の感染症です。臨床的に歯周病治療の目標は歯肉縁上縁下のプラークを除去して炎症のコントロールを行い、歯周組織の健康を回復し再発を防ぐことにあります(いわゆるスカンジナビアンアプローチの原理)。歯肉縁上のプラークコントロールは主に患者に、歯肉縁下のプラークコントロールは術者に委ねられます。歯周組織の診査診断後、歯周基本治療に入ります。
 感染の除去のため、まず非外科処置(手用インスツルメントと超音波スケーラーを用いた歯肉縁上および歯肉縁下のデブライドメントと歯肉縁上プラークコントロール)が行われます。

1. 超音波スケーラーとは

超音波スケーラー(ピエゾ型)は毎秒25,000-50,000Hz(Variosは28,000-32,000Hz)の振動をスケーラーチップで発生させることによって、超音波振動とキャビテーション効果により、歯石と細菌性バイオフィルムの破壊と除去を行うことのできる器具です。エアースケーラーは振動数2,500 - 7,000Hz(Ti-Max S970は5,800 - 6,200Hz)です。
 超音波スケーラーには、ハンドピースの中にマグネットを埋め込んで機械的歪みを発生させ振動の効果を期待した磁歪型(マグネット型)超音波スケーラーと、圧電効果により振動を発するピエゾ型超音波スケーラーがあります。
チップの振動方向が違うため、それぞれの特徴を知ったうえで用いることが大切になります(図1)

Variosはピエゾ型であるため、歯面に対してチップは15度以下の角度にします。チップを当てる強さはフェザータッチで、 チップ先端を歯面から離さず細かく動かし続けることで、 超音波の振動を最大限に活用することができます(図2)。どちらのタイプの超音波スケーラーを使う場合においても、歯面や根面に垂直に当てることは禁忌です(図3)

2. インスツルメントによる効果の差

 歯周基本治療に用いられる手用インスツルメントならびに超音波スケーラーの効果について以下に考察します。
 スウェーデンルンド大学のBaderstenら(1984)は16人の重度歯周病患者に対して超音波スケーラー、手用インスツルメントの効果を2年に渡って調べた結果、歯周組織は著しく改善し、両者に臨床的有意差が無かったと報告しています¹)。
 また、スウェーデンイエテボリ大学のWennströmら(2005)は42人の中等度歯周病患者に対し、テスト群では麻酔下で超音波スケーラーを1時間、コントロール群では麻酔下で手用インスツルメントを用い1回1時間を4回に分けて非外科処置を行った結果、両者に臨床的有意差を認めなかったと報告しています²)。ただしこの研究はスウェーデンの歯周病専門病院で、限られた患者群、術者(歯科衛生士)での効果(Efficacy)*の報告です。
*効果(Efficacy);理想的な条件で得られる治療の効果

 同じくイエテボリ大学のTomasiら(2022)は一般開業医に従事している歯科衛生士95人が615人の患者を麻酔下において1時間、超音波スケーラーを用いて根面のデブライドメントを施した群と、従来どおりの一般的な手用インスツルメントと超音波スケーラーを併用した根面のデブライドメントを施した群で治療的効果に有意差が無かったと報告しています³)。今回は超音波スケーラーを用いた非外科処置の有効性(Effectiveness)**を報告しています。
**現実的な環境や条件下での治療の効果

 臨床結果が同じであれば手用スケーラーに比べて予約回数、診療時間、麻酔量も少なくなり、超音波スケーラーによる “ワンステージディスインフェクション(One Stage Disinfection)”の方が患者術者共に負担が少ないと思われます。もちろん、これらの報告では術後、適切なSPT(サポーティブペリオドンタルセラピー : Supportive Periodontal Therapy)が施されていたことを忘れてはならないでしょう。
 また、Tomasiら(2022)の報告にもあるように深い歯周ポケット(>7mm)では超音波スケーラー、手用インスツルメントに関わらず術後約30%に歯周ポケット(>4mm)の残存があったと報告しているので、やはり初期治療後も残る深い歯周ポケットには歯周外科がトリートメントチョイスとなるでしょう。

3. 超音波スケーラーの臨床効果

 超音波スケーラーはチップの発熱を抑えるために冷却の必要があります。
 Roslingら(2001)は超音波スケーラーの冷却のため初期治療ならびにSPT時に消毒薬を用いたグループ(テスト)と水道水を用いたグループ(コントロール)の12年に渡る追跡調査により、追加された消毒薬により非外科的治療を行ったグループの結果が改善したと報告しています⁴)。このことから当院ではBoPあるいは排膿が認められる深い歯周ポケットに対し、ポケット内の細菌叢の注水によるウォッシュアウトと共に歯周ポケット内に抗菌効果を期待して消毒薬を用いています。
 ここでも、バリオス970は容量が大きな2つのボトルを備えているので重宝しています。

4. バリオスを選択する理由

 当院では超音波スケーラーとパウダーデバイスが1台で使用できるバリオスコンビ Proをメイン機種として、移動が容易なバリオス970をサブの機種としてiCART-Sに設置し使用しています。バリオスは多種のスケーラーチップが用意されており、根分岐部等多くのケースに対応ができるので有効に活用しています。
 日常臨床では極力使用するチップの種類を少なくするために、基本的にスケーリングに用いるチップにはG12を選択し、ある程度の深さのポケットのデブライドメントにも対応しています。SPT時のデブライドメントには残存する深い歯周ポケットにも対応できるシャンクが長いP20を選択しパワー設定を下げて使用しています。

まとめ

 歯周病は、バイオフィルムによって引き起こされる炎症を伴うある種の感染症です。
 歯周治療におけるスカンジナビアンアプローチの原則は歯肉縁上、縁下のプラークをコントロールして歯周組織の健康を回復して再感染を防ぐこと(第三次予防)にあります。
 超音波スケーラーの原理を理解し、適切に応用することは効率の良い歯肉縁下のプラークコントロールにつながり、患者ならびに術者の負担を減らすことができます。

※医院での事例紹介や個人的な感想も含まれます。



参考文献
1) Badersten A, Nilveus R, Egelberg J. Effect of nonsurgical periodontal therapy. II. Severely advanced periodontitis. J Clin Periodontol 1984;11(1):63-76.
2) Wennström JL, Tomasi C, Bertelle A, Dellasega E. Full-mouth ultrasonic debridement versus quadrant scaling and root planing as an initial approach in the treatment of chronic periodontitis. J Clin Periodontol 2005;32(8):851-859.
3) Tomasi C, Liss A, Welander M, Alian AY, Abrahamsson KH, Wennström JL. A randomized multi-centre study on the effectiveness of non-surgical periodontal therapy in general practice. J Clin Periodontol 2022;49(11):1092-1105.
4) Rosling B, Hellström MK, Ramberg P, Socransky SS, Lindhe J. The use of PVP-iodine as an adjunct to non-surgical treatment of chronic periodontitis. J Clin Periodontol 2001;28(11):1023-31.



弘岡 秀明 Hideaki Hirooka

  • 1978年 九州歯科大学卒業
  • 1991年 イエテボリ大学歯学部大学院卒業(歯周病科)
  • 1993年 同大学にて学位”Odont. Licentiate” 授受,帰国
  • 1996年 医療法人社団北欧会 弘岡歯科医院(スウェ−デン・デンタル・センター)開設(日比谷、東京)
  • 2012年 東北大学大学院歯学研究科システム補綴学分野 臨床教授

  • European Federation of Periodontolgy
  • Scandinavian Society of Periodontology
  • Swedish Society of Periodontology
  • European Association for Osseointegration
  • 日本歯周病学会 / 日本臨床歯周病学会