本ウェブサイト上の取扱説明書は、現時点で有効な最新版です。全ての取扱説明書は、予告なく変更される場合があります。常に最新版の取扱説明書を確保頂くため、定期的に本ウェブサイトをご確認頂きますようお願い致します。

NSK-Nakanishi Japan

当コンテンツは、歯科医療に従事されている皆さまへの情報提供を目的としています。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではありませんのでご了承ください。

あなたは歯科医療従事者ですか?

Close

クリニカルレポート

NSK Clinical Report 09ハンドピース用滅菌器iClave mini2の使用ポイント

PDFダウンロード
柏井 伸子

有限会社ハグクリエイション代表
口腔科学修士 歯科衛生士 第二種滅菌技士

柏井 伸子

はじめに

 2020年2月、日本国内ではクルーズ船内での感染拡大が問題視され、世界的にもWHO(World Health Organization世界保健機構)により「パンデミック宣言」がなされました。医療機関でもマスクやグローブなどの個人防護具や消毒用アルコールの供給が滞り、医療資源が枯渇するという事態が発生、かつ多くの施設から滅菌器やハンドピースが発注されたため、欠品という事態が生じました。

1. 感染管理におけるハンドピースの滅菌の重要性

 歯科用器材で最も滅菌が難しいものは何でしょうか?滅菌では、滅菌材(蒸気滅菌では蒸気、ガス滅菌では酸化エチレンガス、プラズマ滅菌では過酸化水素)が直接、被滅菌物に接触しなければならず、空気の層や汚れが存在してはなりません。ハンドピースには、高速回転では圧縮空気が送られるair-way、water-wayがあり、低速回転では電気駆動のモーターが接続されるくぼみがあり、どちらも先端には回転力のために歯車が組み込まれており、複雑な構造になっています。どうすれば確実に滅菌できるのでしょうか。

1-1. スタンダードプリコーションについて
 新型コロナウイルス感染症について多くのレポートを発表してきたCDC(Centers for Disease Control and Prevention米国疾病予防センター)では、1996年に医療施設に向けて「スタンダードプリコーション 標準予防策」を発表し、感染対策の徹底を求めてきました。このスタンダードプリコーションでは全ての患者さんに感染リスクがあり、手指衛生の徹底・個人防護具の適正使用・環境整備などに取り組む必要があるとされています¹⁾。また2003年にはGuidelines for Infection Control in Dental Health-Care Settingsが、さらに2016年にはSummary of Infection Prevention Practices in Dental Settingsが発表され、使用済み器材の滅菌と消毒について解説されています²⁾。では、使用済み器材をいかに安全な状態にし、再使用に備えるかについて考えたいと思います。

1-2. なぜハンドピースの滅菌が重要なのか
 前述の2016年のCDCによる推奨事項の中で、ハンドピースに関しては特に”Note”(特記事項)として以下のような記載があります。
 「患者に使用した歯科用ハンドピースやその付属品、さらに低速回転のモーターや予防処置用ハンドピースは、高レベル消毒や表面の清拭だけでなく加熱滅菌しなければならない」としています。
 また、「ハンドピースはセミクリティカルに分類されるものの、使用後のハンドピースの内部表面には患者由来の汚染物が付着しているという複数の報告もある。これらの器材に適切な洗浄や加熱滅菌されなければ、次の患者に感染性汚染物が噴出するかもしれない」としています。

1-3. 欧州の滅菌基準とハンドピースの滅菌に必要な条件
 欧州にはEN Standard(EN基準)があり、使用済み医療器材の再生処理については1976年に設立されたドイツのAKI(Arbeitskreis Instrumentenaufbereitung)が中心となって、医科および歯科用器材の適切な処理方法について指標を提唱しています³⁾。その中でハンドピースに関しては、「処理時間を可能な限り短縮するために134℃の蒸気滅菌がなされなければならない」としています。さらに歯科用器材に特化した推奨ではEN13060に基づき、高圧蒸気滅菌器は、滅菌対象となる被滅菌物によりクラスB(滅菌バッグや不織布などで包装されたもの・内腔の無いもの・内腔のあるもの・多孔質のもの)とN(非包装・内腔の無いもの)とS(製造者が特定したもののみの小型滅菌器)の3種類に分けられています。ハンドピースは内腔のある器材であり、BもしくはS滅菌器で滅菌されなければならないとしています。

2. ハンドピース滅菌の特殊性と臨床上の操作性

 歯科用器材の中で、最も構造が複雑で、デリケートなものはハンドピースでしょう(図1)。構造の複雑性は滅菌の難しさに繋がります。高圧蒸気滅菌法には、液体である水を加熱することで気体である蒸気を作り出し、それを直接、被滅菌物に接触させることで滅菌するという原則があります。すなわち、ハンドピースの内部に存在している空気を追い出し、内腔部分に蒸気を充満させなければなりません。
 ドイツの歯科臨床においては、最も蒸気浸透が困難な歯科用器材としてハンドピースが設定されており、その内部への蒸気浸透を確認するテストデバイスの使用が義務付けられています(図2)

2-1. ハンドピースに特化したiClave mini2の操作上の優位性
 毎日の臨床業務においては、患者さんのみならず作業者であるスタッフへの医療安全に関する配慮が必要です。iClave mini2では滅菌精度を維持するために精製水が稼働時に毎回供給されます。また作業者が操作時に火傷をしないよう、バスケットの挿入や取り出し専用のフックが用意されています。これをバスケットの取っ手の部分にひっかけて操作します(図3)。また、滅菌行程の進行状況が液晶ディスプレイで表示されたるため、残り時間も把握できます(図4)

2-2. コンパクトサイズによる器材処理スペースの有効活用
 消毒コーナーでは限られたスペースで洗浄・乾燥・包装・滅菌・保管という器材処理のプロセスをこなす必要があるため、スペースの有効活用が求められます。iClave mini2は加熱加圧による空気除去(脱気)により蒸気が浸透しやすい縦型の滅菌器であり、イメージとしては湯沸かしポットくらいのサイズ感です(図5)

3. 使用上の注意点

 医療施設での感染管理では滅菌は最後の砦となりますが、滅菌器は「魔法の箱」ではありません。滅菌器は、製造者が検証を重ね製造したものですが、現場での安全性の確認を怠ってはなりません。滅菌インジケーターを用い、滅菌器の稼働性を確認することが必要で、生物学的インジケーター(BI Biological Indicator)や化学的インジケーター(CI Chemical Indicator)を使用し、簡便に確認します⁵⁾(図6)

3-1. 積載について
 iClave mini2は欧州基準ではクラスSに相当し、十分な蒸気浸透を得るために製造者が指定した器材のみを滅菌対象としています。具体的には滅菌バッグで包装されたハンドピースは6本までであり、この規定を遵守します。また筆者のメインテナンス処置ではエアーアブレージョンと超音波スケーリングを多用しますが、使用するパウダーメインテナンス用と超音波スケーラー用ハンドピースの基準在庫が各3本ずつ用意されており、滅菌サイクルは約40分間※のため、筆者は、2名の患者さんが終了次第、滅菌するようにしています(図7)

※PG-1 : 134℃ UNIVERSAL使用時

3-2. 滅菌前の洗浄・注油の重要性
 質の高い滅菌のためには、滅菌前の洗浄と注油が大切です。使用済みのハンドピースには、外側だけでなく内側にも唾液・血液・組織片などの汚染物が付着します。それを確実に洗浄・除去してから専用のオイルを注油し、いくつもの金属製パーツ間の潤滑な動きを維持します(図8)。内部に水滴があるとオイルがはじかれてしまうため、洗浄後はエアーガンやスリーウェイシリンジなどで確実に乾燥させてから注油します。

3-3. 適切な滅菌バッグの選択
 滅菌器庫内の圧力を調整して空気除去を行うクラスBやSの滅菌器を使用する際には、ハンドピース内部の水や圧縮空気などの管内に、滅菌バッグの紙の繊維(紙粉リント)が入り込むリスクがあると考えています。さらにPVA(polyvinyl alcohol ポリビニルアルコール)を接着剤に使用した滅菌包装材では、滅菌中に接着剤が溶け出し、ハンドピース内部に入り込んで故障の原因となる可能性があります⁶⁾。そのため、筆者は滅菌バッグを選ぶ際には、器具の清潔さを保ち、故障のリスクを軽減するため、紙繊維が少なく、PVA不使用の滅菌バッグを選択するようにしています。

まとめ

 滅菌器を安心して使用するためには、過積載による滅菌器への過負荷を避けることが重要です。また、製造者が指定する給水タンクのお手入れやゴム製パッキンの弾力確認など、使用者が日常的・定期的に行うべき点検や作業を的確に実施することが求められます。患者さんに安全な医療サービスを提供するためには、これらの点検作業を確実に行い、滅菌器の適切な管理を徹底することが必要です。さらに、滅菌システム全体の包括的な管理体制を構築することが重要です。

※医院での事例紹介や個人的な感想も含まれます。




参考文献
1) Molinari JA, Harte JA. Cottone's Practical Infection Control in Dentistry. Philadelphia: Lippincott Williams & Wilkins, 2010.
2) Centers for Disease Control and Prevention. Summary of Infection Prevention Practices in Dental Settings. Basic Expectations for Safe Care. https://www.cdc.gov/oralhealth/infectioncontrol/summary-infection-prevention-practices/index.html
3) Working Group Instrument Reprocessing Instrument Reprocessing. Reprocessing of Instruments to Retain Value. 10th ed. Germany: Arbeitskreis Instrumenten-Aufbereitung, 2012.
4) Working Group Instrument Reprocessing. Instrument Reprocessing In Dental Practices. How To Do It Right. 4th ed. Germany: Arbeitskreis Instrumenten-Aufbereitung, 2011.
5) 一般社団法人日本医療機器学会(編).医療現場における滅菌保証のガイドライン2021.https://www.jsmi.gr.jp/jsmi-info/guideline2021/
6) 特許庁 公開特許公報 公開番号:特開 20024‐84131



柏井伸子 Nobuko Kashiwai

  • 1979年 東京都歯科医師会付属歯科衛生士学校 卒業
  • 2003年 イギリス・ロンドン・スウェーデン・イエテボリ 留学
  • 2004年 有限会社ハグクリエイション 設立
  • 2011年 東北大学大学院医学系研究科修士課程口腔生物学習修了 口腔科学修士
  • 2015年 ミラノにて臨床研究
  • 日本歯科衛生士会
  • 日本口腔インプラント学会
  • 日本歯周病学会
  • 日本口腔感染症学会
  • 日本医療機器学会
  • 日本環境感染学会
  • 日本手術医学会
  • 日本有病者歯科医療学会
  • 日本歯科薬物療法学会
  • 日本骨粗鬆症学会