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NSK-Nakanishi Japan

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クリニカルレポート

NSK Clinical Report 13技術革新がもたらす新たな歯科用エアータービンの世界
― デジタル歯科治療に有用な機種の登場 ―

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 村上 修一

むらかみ歯科医院 院長

村上 修一

はじめに

 当院では、補綴装置の製作にあたり、10年以上、IOS(イントラオーラルスキャナー)を活用してきた。IOSを応用した補綴治療において重要なことは、マージンまで正確にスキャナーが読み取ることで可能となる「精密な印象採得」であり、「精密な支台歯形成」を行うことが必須である。それにはどうしてもマイクロスコープや拡大鏡が必要と筆者は考えており、拡大鏡で見た際、5倍速コントラに比べるとエアータービンではバーのブレを感じることがあった。そのため、精度を追求する形成にはあえて5倍速コントラを使用していた。
 2023年、ナカニシからエアータービン Ti-Max Z990Lが発売された。その登場により、エアータービンでも高精度な形成が可能となったと実感している。

1. 製品の特徴:高トルクと高精度

 Ti-Max Z990Lのパワーは44W*であり、「DYNAMIC POWER SYSTEM」と称される風車部分のエアーを流体力学から効率よく出力に変換できるシステムとなっている(図1)
 また、「DURAPOWER CHUCK」と称したバーの軸ブレが可能な限り、起こらないよう固定するチャック機構により、ナカニシ従来製品のチャックより2倍の耐久性・把持力を長時間発揮し、バーのスリップや軸ブレのリスクを低減するシステムを搭載、ジルコニアに対しても精度を保ちつつ、ストレスなく切削できる(図2)。つまり、低速回転を維持しつつ、ハイパワー、ハイトルクを合わせたエアータービンである。

*Z990L : 使用可能給気圧の最大値0.42MPa時のナカニシ社試験データ。使用の際は、0.28MPa以下を推奨。

2. 臨床での有用性

 今回、Ti-Max Z990Lの有用性を2つの例を挙げて解説する。

① 形成面の拡大比較

 Ti-Max Z990LとTi-Max Z900L(従来品)、2種類のエアータービンを使用した抜去歯の形成面をIOSで拡大比較する。イメージカットダイヤモンドバー ラウンドエイドBR2を使用して、それぞれ一筆書きで形成を行った。スキャン画像の拡大率によっては共に綺麗なマージンを認める(図3)
しかし、さらに拡大すると明らかにTi-Max Z990Lのマージンの方がシャープに形成されている(図4)

② ジルコニアの除去

 ジルコニアはメタルボンドに変わる画期的なデジタル時代の修復用マテリアルである。高温で焼成するため加水による膨張を起こしづらく、経年的にも欠けるなどのトラブルが少ないと言われる。しかし、丈夫であるが故、除去時に大変な労力が必要となり、多くの歯科医師の悩みどころとなっていた。
 図5はジルコニアに対し、Ti-Max Z990L、Ti-Max Z900Lを使い、同じバー(イメージカットダイヤモンドバーラウンドエイドBR2)でスリットを入れたものである。右のTi-Max Z990Lによるスリットはバー形状そのものでシャープに削れていることがわかる。一方、左のTi-Max Z900Lによるスリットはシャープに削れておらず、振動により周囲のセラミックが剥離している。
 ジルコニアの除去はスリットにクラウンリムーバーを挿入し、破折させて行うが、Ti-Max Z900Lはエッジが明瞭ではないため、リムーバーが滑ってしまう。それに対してTi-Max Z990Lはエッジが効いており、リムーバーによる破折除去が容易に行える(図6)
 また、ジルコニアを高速回転のエアータービンで除去しようとすると火花が散ることがあるが、Ti-Max Z990Lでは高トルク低速回転に加え、長さに関わらずバー全体に水が当たるため、火花が散るのを抑えられる。

③ ジルコニアブリッジ切断症例

 下顎右側566のジルコニアブリッジが補綴されているが、下顎右側6番遠心根の歯根破折にて抜歯をすることになった。患者は下顎右側5番のジルコニアクラウン冠の保存を希望された(図7)
 Ti-Max Z990Lとイメージカットダイヤモンドバー ラウンドエイドBR2を使用して、下顎右側56接合部のやや1mm遠心からスライスを入れていく(図8)。下顎右側6番支台歯とダミーの接合部が一番容易であるが、保存予定の下顎右側5番支台歯遠心形態を保つため、このような位置から切断する。ブレの大きな切削機器ではこのような処置は難しいと思われるが、スライスを入れ始めてから20秒ほどで切断を完了。下顎右側5番遠心を形態修正・研磨し、クラックなどを入れることなく保存できた(図9)

おわりに

 筆者が歯科医師になって40年近くが経とうとしている。当時のエアータービンは約40万回転で切削できるようになってはいたが、トルクがなく、強く押し当てると回転が止まってしまうため“フェザータッチで形成”と習った記憶がある。そこから20年近く経ち、電気モーターの高精度化と倍速コントラ(特に5倍速)の出現により、形成のスピードアップと高精度化が実現した。そして、2023年、Ti-Max Z990Lの登場で、切削効率の向上だけでなく、精度の高い形成が可能となった。特にジルコニアのような硬い素材の補綴装置でも容易に除去が行えるようになったという点に、筆者は3回目の技術革新を見たと感じている。

※医院での事例紹介や個人的な感想も含まれます。



参考文献
1)Xin Yang, Ruolan Liu, Jiakang Zhu, Tian Luo, Yu Zhan, Chunyuan Li, Yuqing Li, Haiyang Yu:Evaluating the microbial aerosol generated by dental instruments: addressing new challenges for oral healthcare in the hospital infection. BMC oral health. 2023 Jun 21;23(1);409,2023

2)Qamar Z, Zeeshan T, Alqahtani WMS, Alanazi A, Khalid Aqeel Almejlad N, Ahmed Khan T, Samran A. Modulation of Implants PEEK to Composite Resin Shear Bond Strength and Surface Roughness on Pre-treatment with Contemporary Air Abrasion Techniques VS Photodynamic therapy VS Conventional Diamond Grit Bur. Photodiagnosis Photodyn Ther. 43:103689, 2023

3)Uchoa-Junior FA, Barata TJE, Leão-Vasconcelos LSNO, Ribeiro EL, Tipple AFV. Biofilm on and structural damage of rotary cutting instruments after 5 cycles of clinical use and processing. J Am Dent Assoc. 154(6):495-506, 2023



村上 修一 Shuichi Murakami

  • 1986年 長崎大学歯学部卒
  • 1989年 むらかみ歯科医院 開業
  • 1990年 医療法人 むらかみ歯科医院 理事長
  • 2011年 論文博士(歯学)


  • 日本大学松戸歯学部 臨床教授
  • 日本インプラント学会
  • 日本デジタル歯科学会
  • 日本再生歯科学会