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クリニカルレポート

NSK Clinical Report 16適切なメンテナンスでハンドピースを長持ちさせよう
―感染管理の観点から―

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柏井 伸子

有限会社ハグクリエイション代表
口腔科学修士 歯科衛生士 第二種滅菌技士

柏井 伸子

はじめに

 毎日欠かさず使用する歯科医療機器の一つにハンドピースがあります。皆様の施設では、どのようなメンテナンスをされていますか?高速及び低速回転での切削や研磨など、とても過酷な業務をこなす機器ですが、そのパフォーマンスを維持し、患者さんに対して安全に安心して使用するには「適切な」メンテナンスが欠かせません。ここでいう「適切」とは、製造業者による取扱説明書を遵守した使用前後での取り扱いです。製造業者による耐久試験とは異なる状況下での不適切な取扱いが続くと、一見、問題がなさそうでも、内部で腐食や亀裂が生じ故障の原因となります(図1)。患者さんの安全確保と共に、機器を長持ちさせるためにも適切な使用とメンテナンスが重要です。

1. ハンドピースの適切なメンテナンス法

1) メンテナンスの流れ

 ハンドピースは、切削効率や軽量化等への考慮がなされている機器ですが、その「構造」は非常に複雑で、「適切な」メンテナンスが必要となります。図2に使用後のメンテナンスの流れを示します(図2)

2) 「注油」と「洗浄」は分けて考える

 ハンドピース内部には給水・給気・回転駆動用の回路やパーツが組み込まれており、金属同士が接触して回転力を創り出します。そのため適切に潤滑されないと、こすれあって摩耗や損傷が生じます(図3)。そこで重要なのが内部への「適切な」潤滑です。そのためにオイルを注入し隅々までいきわたらせる必要があります。手差し注油の製品としてパナスプレープラス、EZスプレーの活用が可能ですが(図4)、筆者は自動注油機iCareをメインとして注油を行っています。

自動注油ではジョイントにハンドピースを差し込み、ドアを閉めてモードを選んでスタートするだけで短時間で注油および余剰オイルの排出が完了します。ハンドピース内部構造を駆動させながら注油を行うことが可能で、細部にまでオイルをいきわたらせることができ、便利なだけでなく、適切なメンテナンスにつながります(図5)
 しかし、ハンドピースには唾液・血液などの汚れが付着しているため、まずはしっかりと洗浄することが重要です。付着した血液などを除去しないと滅菌しきれない恐れがあります。また、時間が経過すると血液の凝固やサビの原因となる恐れがありますので、使用後は速やかに洗浄します。さらに注油することで、ハンドピース内に残った汚れなどを排出、ベアリング等を潤滑にします。これを怠ると、故障の原因となる可能性があります。そのため、ハンドピース使用後の清掃方法や洗浄については、各製品の取扱説明書に従って適切に行う必要があります。
 ハンドピースのヘッド内の「チャック」と呼ばれるバーの把持部分の洗浄には、iCareのジョイント”4”に「チャック清掃用ノズル」を装着し、手でハンドピースを把持・固定した状態で稼働します(図6)

2.メンテナンスでの注意点

1) 残留オイルに注意

 注油後の滅菌においてハンドピースの外装、内部に余分なオイルや水が残留していると、使用中における攪拌熱の発生やオイルが出てくる可能性があるほか、オートクレーブの温度上昇を妨げる可能性もあります。また高圧蒸気滅菌法では「被滅菌物に直接、蒸気が接触すること」が大前提であり、残留している水分により、この蒸気浸透が妨げられることが懸念されます。そこで外装はオイルや水の拭き取りを行い、内部に対してはエアーブローにより余剰オイルや水を排出します。
 iCareでは稼働前に「エアー選択ボタン」で適切なエアー噴き出し時間を選択することで、余剰オイルを可能な限り最小限にすることができます。「S」「M」「L」の選択に関しては、ハンドピースの種類ごとに適切なモードが定められているため、取扱説明書を確認する必要があります(図7)

2) Air removal process で内部の空気を抜く

 その後の工程として、滅菌操作を行いますが、オートクレーブによる高圧蒸気滅菌法では、被滅菌物に確実に蒸気が接触し、ハンドピースのような内腔の機器でも、内部まで蒸気が浸透していかねばなりません。そのため、このような器材の滅菌には、被滅菌物の内部に存在する空気除去後に蒸気を浸透させる”Air removal process”が必要です。厳格な欧州基準のEN13060では、高圧蒸気滅菌器を適用被滅菌物別にクラスB, S, Nの3種類に分類しており、ハンドピースに関してはクラスBもしくはSへの準拠が求められます。
 クラスSの一例としては、iClave mini2があります(図8)。対象物はハンドピースであり、滅菌バッグで包装されている場合には6本まで、非包装の場合は12本までが一回の稼働で滅菌処理できます(図9)。また、ミラーやピンセット等の内腔のない鋼製小物も適用です。他の被滅菌物へのオイル付着を防ぐためにも、ハンドピースは滅菌バッグで包装することが重要です。

まとめ

 図2でお伝えしたハンドピースのメンテナンスで、最も重要なことは何でしょうか?学生に問いかけると、大多数が「滅菌」と答えます。しかし、オートクレーブの中で汚染物がきれいに蒸発してなくなることは決してありません。滅菌器は魔法の箱ではなく、洗浄器でもありません。つまり汚染物の排出なしに滅菌を行っても、汚染物は残留してしまいます。よって正解は『洗浄』です。また、汚染物が蓄積すると故障の原因となる可能性もあります(図10)
 ハンドピースを長く安全に使用するためには、次の3つの手順が重要です:①適切な洗浄、②十分な注油、③余剰オイルの排出。これらの滅菌前の手順を確実に実施することで、機器の寿命を延ばし、安定した性能を維持することができると考えます。日本の医療現場で使用される医療機器は医薬品医療機器等法に基づき、製造から販売、市販後の安全対策まで一貫した規制が行われています¹⁾。これに基づき、PMDA(医薬品医療機器総合機構)のホームページには「医療関係者には医薬品や医療機器などの適正な使用が常に求められます。医薬品や医療機器などの「安全」は、医薬品や医療機器などに携わる人々の日々のたゆまぬ努力を通じて築かれていくものであり、それが使用者の「安心」につながるものと考えます。」と記載されています²⁾。
 ハンドピースは医療機器の中でも高価な部類に入るため、患者さんに安心して長期間使用していただくためには、適切なメンテナンスをすることが重要と考えます。

※医院での事例紹介や個人的な感想も含まれます。

参考資料
1)厚生労働省 歯科用医療機器の製造販売承認申請等に必要な生物学的安全性 
2024年4月9日検索
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb8090&dataType=1&pageNo=2
2)独立行政法人医薬品医療機器総合機構ホームページ 
2024年4月9日検索
https://www.pmda.go.jp/safety/outline/0001.html



柏井伸子 Nobuko Kashiwai

  • 1979年 東京都歯科医師会付属歯科衛生士学校 卒業
  • 2003年 イギリス・ロンドン・スウェーデン・イエテボリ 留学
  • 2004年 有限会社ハグクリエイション 設立
  • 2011年 東北大学大学院医学系研究科修士課程口腔生物学習修了 口腔科学修士
  • 2015年 ミラノにて臨床研究
  • 日本歯科衛生士会
  • 日本口腔インプラント学会
  • 日本歯周病学会
  • 日本口腔感染症学会
  • 日本医療機器学会
  • 日本環境感染学会
  • 日本手術医学会
  • 日本有病者歯科医療学会
  • 日本歯科薬物療法学会
  • 日本骨粗鬆症学会