NSK Clinical Report 17効率のよいパウダーメインテナンスのために
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貞光歯科医院 歯科衛生士
澤井 佳代
はじめに
歯科衛生士が行うメインテナンスの主な目的は、①歯肉縁上および縁下のバイオフィルム除去、②ステイン(歯の着色)の除去です。これらの処置を効率よく、低侵襲で行うことが求められます。そのための有用な方法の一つが「パウダーメインテナンス」です。パウダーメインテナンスは、歯面に対する損傷を最小限に抑えながら、器具が届きにくい部位や視認が困難な部位にも効果的に対応でき、ステインも短時間で効率的に除去できると期待されます。
歯肉縁上のパウダーメインテナンスを行うにあたり、事前準備や各パウダーの特徴と活用法をご紹介します。
快適なパウダーメインテナンスのための事前準備
患者さんに快適なパウダーメインテナンスを受けていただけるよう以下の事前準備を行い、診療環境にも配慮しています。
●エプロンはもちろんのこと、フェイスタオルを必ず目元にかけます。パウダーメインテナンス時には口元が空いているタオルも併用します。
●アングルワイダーで口唇を排除しておきます。ただし、アングルワイダーを痛がる患者さんには、ロールワッテで代用します(図1)。
●口唇へはヒビ割れ対策としてワセリンを塗布します。
●飛沫対策や患者さんへの配慮として口腔外バキュームを使用、場合によっては排唾管も使用します(図2)。
パウダーの使い分け
a) ソフトパールの活用<ステイン除去>
当院では、歯肉縁上のバイオフィルムやステインの除去を目的とした場合、「ソフトパール」を第一選択肢としています。
1. 特徴と使用対象
平均粒子径は約65μmで、アミノ酸の一種であるグリシンが主成分です。水分に溶けやすく、軽度から中程度の着色に最適で、天然歯だけではなく限られた補綴装置にも使用が可能です。また、ほんのり甘みがあるため、混合歯列期の10代にも好まれやすいと感じています。
2. 使用時の注意点
噴射口は歯面に対して3~10mm離し、30〜90°の角度で使用可能です(図3)。筆者は基本的に、60°前後の角度で使用していますが、使用可能な角度の範囲が広めに設定されているため、下顎臼歯部の舌側や舌が大きい患者さんにも対応しやすいと感じます。また、パウダーの跳ね返りも強くないため、粘膜への痛みも与えにくいです。
3. 仕上げ研磨
仕上げ研磨は不要です。
患者さんの感想から
審美修復治療を多く手掛ける当院では、補綴装置をいかに良好な状態でメインテナンスできるかが課題です。ステインのつきやすい嗜好品を好まれる方も多い中、「ソフトパール」を活用することで、これまで除去しにくかった補綴装置のステイン、特に隣接面のステインを短時間で取ることができるようになりました。
図4は天然歯とオールセラミック(上顎前歯部)が混在した口腔内で、下顎前歯部にステインの付着が確認できました。以前は、天然歯と補綴装置にそれぞれ異なる研磨材、器具が必要でしたが、ソフトパールのみでステインを効率よく除去することができました。患者さんから「もう取れたの?」との反応をいただくほどでした。
図5は喫煙者です。天然歯だけではなく補綴装置にまでステインの沈着があるため、ソフトパールを全顎的に使用したところ、「洗ってもらっている感じがすごくして、スッキリして気持ちよかったです」、術前術後の口腔内写真を見比べていただいたところ、「細かいところまできれいにしてくれてありがとう」との感想をいただきました。
b) フラッシュパールの活用<強固なステイン除去>
除去しにくい強固なステインには、「フラッシュパール」を選択しています。
1. 特徴と使用対象
使用対象は天然歯です。主成分は、従来の重炭酸ナトリウムと違い、炭酸カルシウムであるため、塩分摂取制限のある患者さんにも使用できます。平均粒子径は約54μmとソフトパールよりも細かく、天然歯に付着した強固なステインとバイオフィルムの除去が可能です。無味無臭で患者さんの好みにも左右されにくいのも特徴です。
2. 使用時の注意点
噴射口は歯面に対して3~5mm離し、10~60°の角度で使用します。粒子形状が球体であるため、パウダーを歯面上で転がすイメージでスプレー噴射を行います(図6)。
パウダーが軟組織に当たらないように、角度とバキュームポジションへの配慮が重要です。
3. 仕上げ研磨
研磨粒子の細かいペーストとラバーカップを使用し、低速回転での仕上げ研磨が推奨されます。仕上げ研磨を行うことで、ステインの再沈着までの期間を延ばすことができます。
当院では仕上げ研磨後、さらにう蝕予防効果を期待し、バイオアクティブフィラーが配合されているPRGプロケアジェルα(株式会社松風)でトリートメントを行っています。
まとめ
これまで補綴装置と天然歯が混在する口腔内には、種々のペーストとカップやブラシなどを状況に応じて選択するなど、一口腔で複数の器材を使用する必要がありました。しかし、適切なパウダーを選択することで、メインテナンスがより効率的に行えるようになりました。私自身担当している患者さんは年配の方も多く、どうしても口を開けておく時間が長いと辛くなる方が多いのですが、施術時間が短縮できたことで、喜ばれる姿を見る機会が増え、快適に受けていただけているなと実感できます。各パウダーの特徴や性質を理解し、適切に選択することにより、患者・術者双方にとって快適で満足度の高いメインテナンスの実現につながっていると感じています。
※医院での事例紹介や個人的な感想も含まれます。
澤井 佳代 Kayo Sawai